2010年7月28日

Princess Parrot Expedition 2010 -その6 アリススプリングス〜ジュピターウェル






6月16日(続き) アリススプリングスから西へ
夕方にアリススプリングスを出発。できるだけ先に進んでおきたいということで、ひたすら西へ走ります。最初はタナミロードというよく知られた道をたどりますが、途中からは、名前もよくわからないし地図にも載っているかどうか、という道路。この日は夜10時頃まで走って、道路脇のクレイパンでキャンプ。途中、道路のまんなかで黒牛が寝ていてぶつかりそうになりました。クレイパンというのは、ごく最近まで水がたまっていた場所で、浅いすり鉢状に草木のない平らな砂地になっているため、キャンプにはうってつけです。5人中、テントを使用していたのは私たち2人だけ。あとの3人は‘スワッグ’を使っていました。スワッグは、厚手の防水生地でできた大きな寝袋で、地面(普通はマットを敷いてその上)に敷いてそのまま寝るためのものです。大きいので防寒対策に中に寝袋を入れたり、フレームやポールやロープを使ってテントのように張って空間を広くしたりはできますが、これ以外にテントは使わないので、なんというか、野ざらしです。昔は、昼間の移動時にはスワッグの中に荷物を入れ、ぐるぐる巻いて背負って歩いた(これがつまり‘スワッグマン’で、有名なウォルシング・マチルダの歌に登場。)という、いわば、テント+寝袋+リュックサック。日本ではあまり聞きませんが、オーストラリアでは伝統的なキャンプ用品です。




17日
朝、出発してすぐにクルマサカオウムを見ることができました。
クルマサカオウム

野生で見られる場所は限られているので、よかったです。

この日は給油のためにキントア(Kintore)とキウカラ(Kiwirrkurra)のコミュニティ(アボリジニの集落)に寄りました(アボリジニのコミュニティに立ち入るには、あらかじめ許可を取得する必要があります)。給油所、といっても、人がいない。そもそも、看板によれば決まった時間にしか人が来ないらしい。しばらく待っていると人がやってきて、今日はコミュニティで不幸があったからしばらく開かない、とか…。
キントアの給油所

だいぶ時間がかかりましたが、無事に給油できました。
夜は、プレハブ小屋数棟が放置されている謎の廃村(通称 out station)でキャンプ。あとでわかったことですが、過去に、ここにコミュニティを作る計画があったもののうまくいかなかったんだとか。この近くがテンニョインコ目撃ポイントのひとつなので、翌朝に期待がかかります。ただ、アリススプリングスを出て以降、確認できる鳥の種類はどんどん減っています。どうも、生物の種類も数も少ない場所のようでした。

2010年7月22日

託児所?

春はまだ(南半球では)、のはずですが、結婚・出産の話題が多い今日この頃。
職場にもベビーがたくさんです。

スナイロワラビー


アカネズミカンガルー



カンガルーの赤ちゃんの楽なところは、とりあえず袋に入れてぶら下げておけばおとなしくしていること。ただし、夜行性のアカネズミカンガルーは、ある程度大きくなると、夜は突然活発になって跳ね回ったりします。

で、人間もこれですんだらどんなに楽なことか…と思うわけです。
オーストラリアでは14歳(だったかな?)以下の子供だけで留守番をさせることが禁止されています。当然、子供のいるスタッフは親(つまり祖父母)に頼んだり、知り合い同士でかわりばんこに面倒を見たり、保育所に預けて安くはないお金を払ったり…いろいろ苦労しています。ぶら下げられているベビーたちを見ながら、そんな子供のいるスタッフに、「こうやってぶら下げておけたらいいのにねえ」、すると彼女は一言「テレビとゲームさえあれば、きっと何時間でもおとなしくぶら下がってるわよ」。飼育員室が託児所となる日も近い?

2010年7月14日

Princess Parrot Expedition 2010 -その5 カルンバ〜アリススプリングス

6月10日(続き) カルンバから南下
カーペンタリア湾に面したカルンバの町からマウントアイザ方面へ南下する道の途中に、バーク&ウィルスというロードハウスがあります。これは、1860年にアデレード近郊から北上してオーストラリア内陸部の縦断に挑戦し、縦断は成し遂げたものの悲劇的な最後を向かえた有名な探検隊にちなんだ命名。この辺りには、探検隊のキャンプ跡地や記念碑などもあります。
Burke & Wills Roadhouse

バーク&ウィルス探検隊については以下の書籍に詳しく書かれています。
 アラン・ムーアヘッド 『恐るべき空白』 (早川書房)

また、椎名誠さんがこの探検記に触発されてほぼ同ルートを旅行したようです。
 椎名誠 『熱風大陸-ダーウィンの海をめざして』(講談社)


マウントアイザへ向かう途中の一泊は、道路脇のレストエリア(Terry Smith Lookout)でした。かろうじて屋根付きのテーブル/ベンチとトイレがあるだけの広場で、まったくの道ばた。この辺りのハイウェイ沿いによくある、ごく普通の施設です。キャンピングカーが何台も止まっていてほとんど満員でした。風が強く、持参したガスコンロでお湯を沸かすのにひたすら時間がかかりるのには困りました。夜は眠っていても、ロードトレインが通るたびに地響きで目が覚めてしまうので熟睡できないし、翌朝はひたすら寒く、逃げ出すように出発しました。
Terry Smith Lookout(レストエリア)


11日 マウントアイザ~カムーウィール
マウントアイザでのメインイベントは、買い物。水、食料、燃料などの買い足しです。今回、料理をする気がなかったので食料はすべてレトルトか乾物。重宝したのが、お米メーカー「Sunrice」が出しているレトルトのタイカレー。ご飯とカレーが別になっているので値段のわりにはおいしいです。
予想以上に涼しかったのであまり心配する必要はなかったかもしれないのですが、生野菜や生物は保存に困るので基本的になし。ノーザンテリトリー(北部準州)に入る時に検疫があるかも?と思ったので、果物も少量のみ。また、ノーザンテリトリーではアルコールの規制が厳しくなるので、お酒の買い足しもなし。持参したラム酒一瓶がなくなったあとは、ジュピターウェルからアリススプリングスに戻ってくるまで一切ノンアルコールでした。冬だから苦にならなかったけど、夏だったらビールが飲みたかったかもしれない。
マウントアイザは鉱山街で、高い煙突から煙がモクモク出ている健康に悪そうなところですが、さすがに資源で潤って裕福なだけあって、街としての設備は整っているようでした。ショッピングセンターもそこそこ混んでいて活気がありました。

ここから先、道は西に向かいます。移動中は猛禽が多く見られ、道路脇にはチャイロハヤブサとオーストラリアチョウゲンボウ、路上には動物の死体を食べにたくさんのトビやフエフキトビ、それに混じってオナガイヌワシも下りていました。
オナガイヌワシ

この日はカムーウィールという街からさらに20kmほど離れた場所にあるCamooweal Caves National Park内のキャンプ場に泊まりました
Camooweal Caves National Park キャンプ場

クリークのそばで、珍しく他に人もいなくていいところでした。鳥の種類も多く、特にインコ類は、アカオクロオウム、モモイロインコ、マキエゴシキインコ、セキセイインコ、オカメインコ、クスダマインコなどたくさんの種類が見られました。

12日 デビルズマーブルズ
カムーウィールの街を出て西へ向かうと、すぐにクイーンズランド/ノーザンテリトリー州境があります。両側に看板が立っているだけ。
QLD/NT州境

マウントアイザの周りは山がちで変化のある地形でしたが、州境を越えるとひたすら平坦でまっすぐな道が続きます。普通の乗用車はあまり通らず、キャンピングカーかロードトレインばかり。牛を運ぶロードトレインが多かったです。
このときは知らなかったのですが、途中のロードハウスはハイイロハヤブサのポイントだったとか。帰りに探しましたが、見られませんでした。

マウントアイザから西に向かっていた道は、やがてオーストラリア内陸部を縦断するスチュアートハイウェイに合流します。合流地点の名前がスリーウェイズ。わかりやすいですね。ここからアリススプリングスを目指して南下します。この日は、奇岩で有名なデビルズマーブルズのキャンプ場に宿泊。満員でしたが、巨大な丸い岩が無数に転がっていて、不思議なところでした。そして、ひたすら寒く、朝は0度を下回っていたかもしれません。案内板によれば、いろいろとおもしろい動物がいそうだったのですが、寒すぎるし、人が多いので特に探さず。岩場を歩き回ったあとは、さっさとテントに引きこもってしまいました。




13日 アリススプリングスに到着
アリススプリングスに着いてまず目指したのが、アウトドア用品店。防寒具と、風が強くても使えるバーナーを買うため。ところが、9時開店のはずのその店はまったく開く気配がなく、ショッピングモールも閑散としている…「時差があるんだっけ?」 そうなんです。クイーンズランドとノーザンテリトリーでは30分の時差があったんです。30分遅い。道理で、朝になってもいつまでも暗いと思った…。
仕方ないので、暇つぶしに植物園へ。ここで思いがけず、サービス精神の旺盛なニシマダラニワシドリに会えました。穴場か?と思いきや、あとでジュピターウェルで合流したDon Haddenさんの写真集にも載っていたので、よく知られた場所のようでした。
ニシマダラニワシドリ

ニシマダラニワシドリの「庭」

結局、高い上着には手が出せず、買ったのはいわゆるババシャツとモモヒキ。でもこれがあるだけで相当違いました。ここまで寒いとは思わなかった…。
この日はアリススプリングスのホテルに宿泊。久しぶりのシャワーと洗濯ができました。

14日 オーミストン渓谷
アリススプリングスの東西にはマグダネル山脈が連なり、あちこちに渓谷があります。
この日は2ヶ所を訪れ、そのうちのひとつ、オーミストン渓谷のキャンプ場に宿泊。ここも満員でしたが、周りに鳥が多く、トイレ・シャワー設備もあるいいところでした。その分、料金は公営のキャンプ場にしては少々高め。
テントを張ったすぐ裏に、ショウキバトが採餌にやってきました。「ポポー」とか「ククー」とか小声でなきながらちょこまか歩き回る、非常にかわいらしいハトでした。ハトの世話をするようになって以来すっかりハト好きになっているので、もうこれだけで幸せ。
ショウキバト


15日 エラリークリーク
オーミストン渓谷から4時間コースの登山道を登り、エミュームシクイなどを探しました。特殊な環境にしかいない鳥なので登山道を全部歩く必要はないし、後半は川の水が多いと濡れることになりそうだったので、3分の1程度まで行って引き返してきました。結局、エミュームシクイは見られませんでしたが、ハシボソセスジムシクイ、ムナグロオーストラリアムシクイ、マルオセッカなどが見られました。
涼しくて、歩きやすかったです。オーストラリアはどこに行っても、だいたい暑くて歩くのがイヤになるけど、これだけ涼しいと登山もいいなーと暢気に考えていたら、巨大なザックを背負ってボロボロのTシャツを着た山男のような人が向こうからのしのし歩いてきました。マグダネル山脈には、ララピンタトレイルという縦走ルートのようなものがあるので、それを歩いている人だったようです。縦走といっても全体を一気に歩くのではなく、いくつかに区画が分かれていて、それぞれ日帰りだったりキャンプが必要だったりするようです。観光局のサイトによれば、全行程で20日間、225kmだとか。冬ならいいけど、水場がなさそうだし全く日陰がないので、夏は無理だろうなあ。
http://www.australia.com/jp/itineraries/nt_larapinta_trail.aspx

オーミストン渓谷の東にあるエラリークリークの登山道も歩きました。どちらも、背の高い木はごくまばらにしかなく、あとは灌木とスピニフェクスという植生で、見晴らしがいいです。ほんのちょっと登っただけで、周りには人工物がもう何もなく、車の音も聞こえず、人にもほとんど出会わない、手軽に山奥気分が味わえるうれしい所でした。ここにもハシボソセスジムシクイ、ムナグロオーストラリアムシクイ、カオグロモリツバメなどがいました。ほとんどの鳥は、こちらがじっとしていればかなり近くまで寄ってきてくれました。
この日はエラリークリークに宿泊。オーミストン渓谷はほとんどキャンピングカーばかりでしたが、ここはテント泊の人も多かったです。

16日 アリススプリングス出発
アリススプリングス・デザートパークという動物園のような施設に立ち寄りました。
中央オーストラリアのいろいろな環境を再現して、そこに住む動物(おもに鳥)を飼育していました。まだまだ新しいようでしたが、なかなかおもしろかったです。広い夜行性動物館もありました。ここでバードショーを見学したのですが、なんと主役はトビ(フエフキトビとトビ)。客席やステージの周りを、飼育員の合図(要するに餌)に合わせて、気持ちよく悠々と飛び回っていました。これでトビをかなり見直しました。

この後、アリススプリングスの街で四駆自動車を借り、空港に他のメンバーを迎えにいきました。フィル、ジェイコブ、アランの3人。フィルは相方が勤める鳥ツアー会社のボスで今回の旅行の計画者、ジェイコブはフィルの家にホームステイ中、アランはシドニーから来たトゥイッチャー。フィル以外とは初めてだったのですが、あいさつもそこそこに買い物、5人で1台じゃ狭すぎると文句を言いながらなんとか荷物を積み込み、そしていよいよジュピターウェルに向けて出発です。

2010年7月10日

道具を使うインコ?


オオハナインコ(Eclectus roratus
(勤務先の飼育施設にて)

器用にフォークを使ってトウモロコシを食べているインコ?
…ではなく、残念ながら、フォークを刺したトウモロコシをあげたら、そのままつかんで食べていただけ。「使っている」とは言えないですね。
持ちやすくなっていいかと思いきや、この後、邪魔になったフォークをあっさり投げ捨てていました。

スプーンやフォークを使って食事をするのを教えること自体は、不可能ではありません。
ただ、フォークで突き刺すという動作にはかなりの技と力が要求されるため、基本的には「すくう」動作になるだろうと思います。

鳥類には道具を使う種類もいて、石を落として卵を割ったり(クロムネトビ、エジプトハゲワシなど)、小枝やサボテンのとげで樹皮の下にいる虫をつつきだしたり(キツツキフィンチ)する行動が有名です。
賢いと言われるオウムやインコですが、道具を使っていると思われる場面を見たことはありません。ただし、器用で強力な嘴と足を使って、ネジを抜いたり、ボタンを取ったり、自分でケージのドアを開けて脱走したり、目を離した隙に他の動物のケージの掛け金を外してしまったり… ときには思いも寄らないことをしでかして驚かせてくれます。

2010年7月7日

Princess Parrot Expedition 2010 -その4 ケアンズ〜カルンバ

以下は旅の様子のごく簡単なまとめです。鳥、哺乳類、爬虫類の確認種リストは最後にまとめて掲載する予定です。

67日 ジョージタウン


前日中に買い物を済ませ、うちにいる生き物(ハトx1、ヤモリx1、タランチュラx1 +餌用コオロギ)を同僚宅に預け、近所に仕事場がある知り合いに郵便受けの確認を頼んでおき、この日は比較的のんびりとケアンズを出発、アサートン高原を通ってジョージタウンに向かいました。泊まった場所はジョージタウン近郊の古い煙突と池のあるレストエリア。ここはキャンプOKとは示されていないのですが、オーストラリアの探鳥地ガイドブックにも「キャンプには最高の場所」とか書かれている人気のスポット。特に、乾季には池の周りに鳥が集まり、セキセイインコの大きな群れが見られることもあります。沿岸部のケアンズとは既にまったく植生が違い、雨林ではなくサバンナ、つまり水辺を中心にユーカリなどの樹木がまばらに生える草原、という環境です。ケアンズ~ジョージタウン(あるいはチラゴーやアンダラ)間は海岸、熱帯雨林、分水嶺そしてサバンナ、という環境の移り変わりを実感できるおもしろいルートです。


8日 コボルドゴージ
日程の都合上1日余裕があったため、コボルドゴージ(Cobbold Gorge)という所に寄り道。以前、ジョージタウンの観光案内所でチラシを見て気になっていたのですが、正直、たいしたことはなかったです。ゴージ(渓谷)そのものはここからさらに車で10分ほど離れており、私有地内なのでツアーに参加するしかありません。切り立った崖の底を非常に細い川が流れていて、水面に反射した光が岩に映ってゆらゆら揺れている様子などはたしかにきれいですが、鳥見という観点からは特筆する所なし。ジョンストンワニは近くで見られました。

ジョンストンワニ(Crocodylus johnstoni)

ちなみに、コボルドというのは発見者Cobboldさんにちなんだ名前であり、妖精とか妖怪(こっちのスペルはkobold)が出るわけではありません。残念。
ここのキャンプ場は、もちろん有料ですがトイレ、シャワー、洗濯機、お湯完備。コテージ式の部屋もあるので、不便なキャンプはイヤだけどアウトバックの雰囲気を味わってみたいという人にはいいでしょう。施設は手入れが行き届いていて、とてもきれいでした。レストランもありましたが、貧乏旅行なのでトニックウォーターとコーラを買って自前のラム酒とライムを入れて飲んだだけ。それでも幸せなほどおいしいのがキャンプの不思議なところ。


9日 カルンバまで
この日はひたすら移動。夕方にはカルンバに到着。が、キャラバンパークはどこも満員。河口近くにあるため、メインはバラマンディ狙いの釣り客のようでした。ぎゅう詰めのキャラバンパークにお金払って泊まるのもなあ…ということで、少し戻った道路脇のレストエリアでキャンプ。キャンプ可なのですが、見事に何もない。でも比較的広いので他の車を気にせずに済みました。
カルンバの周りは氾濫原が広がり、乾季の今は水はほとんどありませんが、所々に残った湿地に鳥が集まっていました。湿地だけでなく路上にも鳥が多く、特にアシナガツバメチドリはなかなか飛び立とうとせず、車の周りを平気で飛び交って危険なほど。そして、夜にはオーストラリアズクヨタカも見ることができました。
乾季の氾濫原

オーストラリアヅル


湿地 -オーストラリアセイタカシギなど


10日 クルーズ


カルンバでは探鳥専門のクルーズに参加。船自体は釣り用のクルーズもやっているようでしたが、この日は探鳥のみ。乗り合わせたのはイギリスから来たバーダー数人。オーストラリアには南海も来ているというベテランでした。ここで狙うのはズアカミツスイ、シロハラモズヒタキ、マングローブオウギビタキなどの固有種、固有亜種。比較的小さな鳥たちです。とりあえず一通り見ることができたけど、とにかく寒かった! カルンバは海辺にあり、緯度も低いのでかなり暖かい地域ですが、この日はクルーズ船のオーナー夫妻も驚くほどの冷え込みでした。そしてこの先、カルンバの寒さなどまだまだ序の口だったということを思い知らされるはめになるのを、このときはまだ知らなかったのでした…。

2010年7月2日

Princess Parrot Expedition 2010 -その3 テンニョインコについて

テンニョインコ(Princess Parrot Polytelis alexandrae)はオーストラリア中部に固有の中型インコで、IUCNレッドリストではNT(準絶滅危惧)に指定されています。しかし、移動性の高い種であるために実際の生息数や生態を把握することが難しく、実態はほとんど明らかになっていません。オーストラリアのバーダーにとってさえ”mythical”、つまり伝説的・神秘的なイメージ漂う鳥であり、おなじみのSlater図鑑(The Slater Field Guide to Australian Birds)には、「分布域の境界を正確に示すことは不可能であり、いつどこで見られるかを正確に予測することもできない」とまで書かれています。
ただし、飼い鳥としてはそれほど珍しくなく、飼育下繁殖の個体数は安定しています。
オウムやインコには、このように飼い鳥としてよく知られたものでも野生下では絶滅が心配されているケースがままあります。途上国で乱獲され、ペット用として裕福な国に送られている実状があるのは悲しい話です。(詳しくは World Parrot Trust を参照)
ちなみに、オーストラリアでは野生動物の捕獲・飼育は原則禁止です。

ジュピターウェルに向かう直前、アリススプリングスの飼育施設で飼育個体を見てきました。


野生下でのおもな生息環境は、内陸の砂丘で灌木とまばらな樹木が見られ、地表にスピニフェクス(先の尖った非常に硬い葉を持つイネ科Triodia属の植物)が生えているような場所です。
スピニフェクス(Triodia)と灌木の茂る砂漠
採餌は、地上で草の種子を食べたり、灌木で花や蜜、葉を食べるということですが、いずれも目撃例が少なく、詳しくわかっていません。例えば、内陸の生物の餌資源として重要なスピニフェクスの種子を食べるのかどうかという点についても、食べるという話もあれば、あまり食べないという意見もあります。
(参照:Higgins, P.J. 1999. Handbook of Australian, New Zealand and Antarctic Birds: Volume 4. Oxford University Press, South Melbourne.)

今回向かったジュピターウェルでは、ほぼ毎年、目撃例があるということですが、そのほとんどは上空を飛んでいったのを見たという、かなり偶発的なもの。しかも、ジュピターウェル周辺の環境がとりたててよいということではなく、単に、他にアクセスできる場所がほとんどないのです。
そういうわけで、そもそも、かなり大雑把な探索行だったわけですが、ほかに確実な手段がないわけですから、行ってみる価値はある。でも、相手は天候その他の状況によって自由に移動してしまう、ということで、いわば出たとこ勝負だったのでした。